国境を越える家族の将来設計:多文化家族が共有すべき金融リテラシーと計画
はじめに
多文化家族においては、子どもの成長に伴い、将来に関する様々な話題が出てきます。進学、キャリア、さらには親自身のセカンドキャリアや老後といった広範なテーマが、日々の生活の中で検討されることになります。その中でも、家族の将来設計を具体的に進める上で避けて通れないのが、金融リテラシーに関わる話題です。
異なる文化背景を持つ家族が、お金や将来の計画について話し合うことは、時にデリケートで複雑な課題となり得ます。お金に対する価値観や、資産形成、投資、相続といった概念は、育った国や文化、さらには世代によって大きく異なる場合があるためです。本記事では、多文化家族が直面する金融リテラシーや将来設計に関する課題に焦点を当て、その重要性や、家族間で理解を深め、共に計画を進めるための実践的なアプローチについて考察します。
多文化家族における金融・将来設計の難しさ
多文化家族において、金融や将来に関する話題が難しいと感じられる背景には、いくつかの要因があります。
まず、文化や教育制度の違いが挙げられます。金融教育が学校教育で体系的に行われている国もあれば、そうでない国もあります。また、貯蓄、投資、借入、資産運用といった概念に対する一般的な考え方や国民性が異なることも、家族間の価値観のギャップを生む原因となります。ある文化では倹約が美徳とされていても、別の文化では投資や事業への積極的な姿勢が奨励されるといった違いがあり得ます。
次に、言語の壁です。金融や法律に関する専門用語は、母語であっても難解に感じられることがあります。家族間で異なる言語を用いる場合、正確な情報共有がさらに困難になります。特に、国際的な資産や複数の国の制度が絡む場合、複雑さは増します。
さらに、将来に対する考え方の違いも重要です。例えば、子どもの進学先として国内外の選択肢がある場合、それぞれの教育システムにかかる費用、奨学金制度、卒業後のキャリアパスと収入の見込みなど、比較検討すべき要素が多岐にわたります。親自身のセカンドキャリアや老後においても、年金制度、医療保険、資産の移転(送金や相続)など、複数の国の制度を理解し、計画に織り込む必要があります。
これらの要因が重なり合い、多文化家族が一体となって金融リテラシーを高め、将来設計を共有することは、容易なことではありません。しかし、家族の安心と将来の選択肢を広げるためには、この課題に丁寧に向き合うことが不可欠です。
親が主体的に取り組むべきこと:学び直しと情報収集
多文化家族の親として、まず自身が主体的に金融リテラシーを高めることが、家族全体の将来設計を進める上での第一歩となります。特に50代前後の親世代は、自身のセカンドキャリアや老後だけでなく、思春期以降の子どもの進学や自立にかかる費用についても具体的な計画を立てる時期を迎えています。
自身の出身国と居住国の制度、そして将来的に子どもが活動する可能性のある国の制度(教育、雇用、年金、税金など)について、基本的な情報を収集し、理解を深めることが重要です。インターネット上の信頼できる情報源、書籍、セミナーなどを活用できます。ただし、情報の正確性には十分注意を払う必要があります。
また、必要に応じて専門家に相談することも有効です。国際的な税務や相続に詳しい税理士、海外の教育制度や進学費用に詳しい教育コンサルタント、国際的な視点でのライフプランニングに知見を持つファイナンシャルプランナーなどが考えられます。専門家の知見を借りることで、複雑な制度を正確に理解し、家族にとって最適な選択肢を検討することが可能になります。
子どもとの対話を進めるアプローチ
親自身の理解が進んだら、次は子どもとの対話を通じて、家族全体で金融リテラシーと将来設計に関する共通認識を築いていく段階です。
1. 早い段階からオープンに話し始める: 「お金の話はタブー」といった文化的な背景があるかもしれませんが、子どもが小さいうちから、お小遣いの管理や貯金といった身近なテーマを通して、お金との関わり方を学ぶ機会を作ることが大切です。思春期に入ったら、進学費用、留学費用、将来のキャリアと収入、さらには親の資産や老後の計画についても、子どもの理解度に合わせて段階的に共有していくことを検討します。
2. 文化的な背景を尊重する: 家族それぞれの文化におけるお金に対する価値観や考え方を理解し、尊重する姿勢を示すことが重要です。なぜそのように考えるのか、その背景にある歴史や社会構造、家族の経験などを共有することで、互いの理解が深まります。自分の価値観を押し付けるのではなく、多様な考え方があることを認め合う対話を目指します。
3. 具体的な目標や選択肢を共有する: 漠然とした将来の話ではなく、具体的な進学先候補やキャリアパス、それに伴う費用、必要な貯蓄額などについて、情報を共有し、共に考える機会を持ちます。例えば、「大学に進学する場合、国内外でこれくらいの費用がかかる可能性がある」「奨学金制度にはこういったものがある」「将来海外で働くことを考えるなら、このような準備が必要になる」といった具体的な話題は、子どもが自身の将来を現実的に捉える上で役立ちます。
4. 体験談を共有する: 親自身のキャリア形成における経験談や、お金に関する成功談、失敗談などを共有することも、子どもにとって学びとなります。また、友人や親戚など、他の多文化家族の先輩たちの体験談を聞く機会があれば、様々なケースを知ることができ、参考になるでしょう。
- ある先輩家族の体験談: 「私たちの家族は、夫がA国、私がB国出身、子どもは日本で生まれ育ちました。子どもの進学先を検討する際に、A国、B国、日本の教育制度と費用、奨学金について調べ始めましたが、それぞれの国の情報収集だけでも大変でした。特にA国では、教育費に関する考え方が日本と異なり、親がどこまで負担するのが一般的かといった慣習も違いました。そこで、まずは親である私たちがそれぞれの国の友人や、その国での進学経験がある方に話を聞き、情報を整理しました。その後、子どもと一緒にそれぞれの選択肢のメリット・デメリット、費用、卒業後の進路などを話し合いました。最終的に日本の大学に進学しましたが、この過程で、私たち夫婦の子どもに対する金銭的なサポートに関する考え方の違いも明確になり、話し合って共通の理解を得ることができました。お互いの文化背景を理解しようと努める姿勢が大切だと感じています。」
このような体験談は、実際に課題に直面している家族にとって、具体的な行動を起こす上でのヒントや勇気を与えてくれます。
結論
多文化家族が国境を越える家族の将来設計を進める上で、金融リテラシーの向上と家族間の計画共有は極めて重要です。文化や言語、制度の違いといった課題はありますが、これらは丁寧な対話と情報収集、そして必要に応じた専門家のサポートによって乗り越えることが可能です。
親自身が主体的に学び、自身の経験や知見を子どもと共有すること、そして何よりも、家族それぞれの文化的な背景や価値観を理解し尊重しながら対話を進める姿勢が、家族の絆を深め、将来に対する共通の安心感を育む基盤となります。一朝一夕に全てが解決するわけではありませんが、継続的に家族で話し合い、共に学び続けることが、多文化家族ならではの豊かな将来を築く力となるでしょう。